TPP参加後のある日のシリカ太郎
近未来のある日の出来事。
TPP交渉妥結からまもなく。
例によって十分な審議も尽くさないまま、国民の強い反対の声を押し切って、自民党の強行採決で決められてしまった日本のTPP参加。
安倍晋三が満足そうにほくそ笑む顔が、翌日の新聞の一面で大々的に報じられた。
安倍の破顔も当然である。
「彼ら」は勝利し、「我々」は敗北したのだ。
関税及び非関税障壁は全て撤廃され、日本を含めたTPP参加国は、実質的に一つの連邦を形成することになった。
EU(欧州連合)のように、かつてローマ帝国として一つの国を形成し、ラテン語という共通言語を持ち、ヘレニズムやキリスト教という同じ文化や宗教を共有しながら発展してきた欧州各国が、やがて一つの連邦を再形成するに至ったことには、まだ歴史的な必然性が存在していた。
しかし、太平洋のまわりに位置しているという単なる地理的な理由だけで、世界で最も古い歴史と伝統をもつ日本が、文化的に何の脈略も共通項も持たないアメリカ、カナダ、オーストラリア、南米諸国のような、18世紀以降に人工的に建設された移民国家と、一つの連邦を形成するというのである。
このことが、日本にどんな結果をもたらしたか。
当然のことのように、日本人が従来占めていたポストを、外国人が占めるようになった。
英語が共通語とされ、小中学校の授業もやがて英語で行われるようになった。日本語は第二共通語となり、かつて英語が占めていた地位に降格させられた。
中年以上で、いまさら英語を勉強してもどうにもならない世代の大人たちは、新しい時代の趨勢についていくことができず、窓際に追いやられていき、企業や組織の中心を占めるのは、幼児期から英語を学んで母国語のように英語を操る新しい世代の日本人だった。
これはまさに第二の敗戦。
第二の占領統治そのものだった。
そして、この二度目の占領統治には、出口は設けられていなかった。
TPPにはラチェット規定があり、参加した以上は二度と抜けられないのである。
TPP域内が、国境のない一つの連邦、一つの市場を形成するようになった以上、比較優位は極限まで進み、日本の農家には離農するものが相次ぐようになった。
農家が手放した田畑を、農業ビジネスに乗り出した大企業が買い上げ、機械化された大規模経営によって、農産物を大量生産するようになった。
農業会社の大規模ファームで働くのは、東南アジアや南米から日本に移り住んできた低賃金の外国人労働者たちであり、その利潤を吸い上げるのは主に外国人投資家たちであった。
日本人の農家の中には、小規模経営で、高付加価値の高級産品を生産して生き残る者もいたが、彼らの生産物を購入するのは、日本人ではなく、もっぱら中国の富裕層だった。
日本の庶民が口にするのは、外国の安い米や肉、大規模ファームで外国人労働者によって大量生産された土の香りのしない人工的な野菜。
日本の伝統的な農業は壊滅し、人口は都市部に集中し、それに伴って地域の共同体も消滅していった。
各地の神社や祭祀を継承するものはなくなり、寺や神社は廃墟となって放置されるようになった。
そんなある日のこと、道でばったり出くわしたシリカ太郎に、WJFが掴みかかった。
「おい、この野郎。あの時、俺はお前に警告したぞ。安倍を支持したら、日本は、こうなると。俺が言った通りになったじゃねーか。いつも俺が言った通りになるじゃねーか。お前、この落とし前をどうつけるんだ。」
シリカ太郎は、WJFの目も見ずにこう答えた。
「お、俺、お前の動画ほめてやったじゃん。なんだよ、その傲慢な態度は。」
WJFは気が触れたようにシリカを怒鳴りつけた。
「ふざけんな、この野郎。慰安婦、慰安婦、慰安婦、慰安婦って。日本が直面している危機は、歴史問題だけじゃねーぞ、構造改革にもっと目をむけろと、あのとき、俺はお前をバカとなじってまでも、何度も何度も警告したよな。しかし、お前は俺の警告を無視し、ばかみてーに、安倍を支持し続けた。その結果が、この有様だ。お前は日本を壊した。日本を壊した張本人がお前だ。腹かっさばいて、責任とれ、この野郎。」
シリカ太郎は、うつむきながらつぶやいた。
「そんなこと、シリカ。」
例によって十分な審議も尽くさないまま、国民の強い反対の声を押し切って、自民党の強行採決で決められてしまった日本のTPP参加。
安倍晋三が満足そうにほくそ笑む顔が、翌日の新聞の一面で大々的に報じられた。
安倍の破顔も当然である。
「彼ら」は勝利し、「我々」は敗北したのだ。
関税及び非関税障壁は全て撤廃され、日本を含めたTPP参加国は、実質的に一つの連邦を形成することになった。
EU(欧州連合)のように、かつてローマ帝国として一つの国を形成し、ラテン語という共通言語を持ち、ヘレニズムやキリスト教という同じ文化や宗教を共有しながら発展してきた欧州各国が、やがて一つの連邦を再形成するに至ったことには、まだ歴史的な必然性が存在していた。
しかし、太平洋のまわりに位置しているという単なる地理的な理由だけで、世界で最も古い歴史と伝統をもつ日本が、文化的に何の脈略も共通項も持たないアメリカ、カナダ、オーストラリア、南米諸国のような、18世紀以降に人工的に建設された移民国家と、一つの連邦を形成するというのである。
このことが、日本にどんな結果をもたらしたか。
当然のことのように、日本人が従来占めていたポストを、外国人が占めるようになった。
英語が共通語とされ、小中学校の授業もやがて英語で行われるようになった。日本語は第二共通語となり、かつて英語が占めていた地位に降格させられた。
中年以上で、いまさら英語を勉強してもどうにもならない世代の大人たちは、新しい時代の趨勢についていくことができず、窓際に追いやられていき、企業や組織の中心を占めるのは、幼児期から英語を学んで母国語のように英語を操る新しい世代の日本人だった。
これはまさに第二の敗戦。
第二の占領統治そのものだった。
そして、この二度目の占領統治には、出口は設けられていなかった。
TPPにはラチェット規定があり、参加した以上は二度と抜けられないのである。
TPP域内が、国境のない一つの連邦、一つの市場を形成するようになった以上、比較優位は極限まで進み、日本の農家には離農するものが相次ぐようになった。
農家が手放した田畑を、農業ビジネスに乗り出した大企業が買い上げ、機械化された大規模経営によって、農産物を大量生産するようになった。
農業会社の大規模ファームで働くのは、東南アジアや南米から日本に移り住んできた低賃金の外国人労働者たちであり、その利潤を吸い上げるのは主に外国人投資家たちであった。
日本人の農家の中には、小規模経営で、高付加価値の高級産品を生産して生き残る者もいたが、彼らの生産物を購入するのは、日本人ではなく、もっぱら中国の富裕層だった。
日本の庶民が口にするのは、外国の安い米や肉、大規模ファームで外国人労働者によって大量生産された土の香りのしない人工的な野菜。
日本の伝統的な農業は壊滅し、人口は都市部に集中し、それに伴って地域の共同体も消滅していった。
各地の神社や祭祀を継承するものはなくなり、寺や神社は廃墟となって放置されるようになった。
そんなある日のこと、道でばったり出くわしたシリカ太郎に、WJFが掴みかかった。
「おい、この野郎。あの時、俺はお前に警告したぞ。安倍を支持したら、日本は、こうなると。俺が言った通りになったじゃねーか。いつも俺が言った通りになるじゃねーか。お前、この落とし前をどうつけるんだ。」
シリカ太郎は、WJFの目も見ずにこう答えた。
「お、俺、お前の動画ほめてやったじゃん。なんだよ、その傲慢な態度は。」
WJFは気が触れたようにシリカを怒鳴りつけた。
「ふざけんな、この野郎。慰安婦、慰安婦、慰安婦、慰安婦って。日本が直面している危機は、歴史問題だけじゃねーぞ、構造改革にもっと目をむけろと、あのとき、俺はお前をバカとなじってまでも、何度も何度も警告したよな。しかし、お前は俺の警告を無視し、ばかみてーに、安倍を支持し続けた。その結果が、この有様だ。お前は日本を壊した。日本を壊した張本人がお前だ。腹かっさばいて、責任とれ、この野郎。」
シリカ太郎は、うつむきながらつぶやいた。
「そんなこと、シリカ。」

- 関連記事
-
- 日本人には安倍政権を支持する権利はない (2015/06/24)
- 「自然国家」日本の消滅 (2015/06/13)
- TPP参加後のある日のシリカ太郎 (2015/05/31)
- 英語が公用語となる時代の到来 (2015/04/10)
- グローバリズムがもたらす社会 (2015/04/04)